動物の行動は、基本的には生得的なもの、つまり本能・習性によるもので生得的な行動は、受精卵に含まれる遺伝情報によってほとんどの部分が自然に発達してくる。
犬には動物としての遺伝子、イエイヌとしての遺伝子、犬種としての遺伝子があり、人に長年飼養されてきた犬でもその行動の多くの部分は生得的なものなのだ。
たとえば、犬が目の前を何かが走り抜けると追いかけようとする行動は犬の祖先であるオオカミの狩りの行動そのものであり、また、犬が遊びに誘う前半身を低くするプレイバウなどのボディランゲージも野生の祖先からそのまま引き継いできている犬独特の生得的なコミュニケーション行動なのである。
では、動物は生得的なものによってだけ行動をしているかというとそうではなく環境の変化に応じて行動を変化させる能力、つまり学習能力を持っている。
学習とは「個体が特定の環境条件に合せて行動パターンを獲得したり変形させたりすること」と定義され、学習プロセスは、一般的に慣れ(馴化)・古典的条件づけ・オペラント条件づけ・遊び・模範あるいは観察・洞察・刷り込みの7種類に分類される。ただし、余談になるが7種類のうち、刷り込みは個体の生涯のうちのある限られた期間にしか成立せず、それ以前でも、また、その期間を過ぎても刷り込まれることは決してなく、刷り込みによって獲得した知識は生涯を通じて保たれる。これに対して残りの学習に対しては忘却が伴うので刷り込みは一特殊形態といわれている。
犬の学習能力を利用して行うのが犬のしつけトレーニングだ。
犬の「しつけ」とは飼養者(家族を含む)と犬との間に適正な社会関係を築き、飼養者が犬を常にコントロールできるようにし家庭犬としてのマナー(行動パターン)を身につけさせる学習だ。犬のしつけトレーニングの方法のほとんどは学習理論に基づいた行動科学で説明され、一般的に行われているしつけトレーニングは、高齢者でも子供でも家族の誰でもができるオペラント条件づけの正の強化(ほめるしつけ)だ。
ただし、このトレーニングも同じ条件付けが繰り返さなければ忘れられてしまう(オペラント条件づけの消去)ので繰り返しトレーニングを行うことが大切なことを覚えておこう。
そして、学習能力の範囲には限界があり、ふつうは生得的な行動の変形が学習の限界で生得的な行動を根本から変えることはないし、させることもできないことも併せて覚えておいてほしい。
犬は、本能で生きていることを肝に銘じ、犬とバランス良く暮らしてほしいと思う。
文・写真 吉川孝治
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