前回書いた人の動物に対する考え方の変化に基づき動物愛護の運動が世界各国でどのようにして起こってきたのだろうか。
動物愛護運動の先進国はイギリス、アメリカ、カナダ、オランダ、スウェーデンなどだ。
中でも世界中の国々が参考にした1822年に世界史上で最初の動物虐待防止法「家畜の虐待と不適当取り扱い防止条例」を成立させたイギリスが近代的動物愛護運動の発祥の地といわれている。この法律は、この法案を国会に提出し、成立させたリチャード・マーチン(1754-1834)の名前からマーチン法とも呼ばれている。
余談になるがマーチン法が成立する120年前、1702(元禄15)年に日本で牛や馬が引く荷物の重量制限をした「馬荷付量規制」が出されていた。雑学の一つに加えておくのもよいだろう。
マーチン法が成立した2年後の1824年ロンドンで動物虐待防止協会(SPCA)が設立され、世界初の民間の動物愛護運動が始まった。この協会は1840年にビクトリア女王からRoyalの名を用いることを許され、王位動物虐待防止協会(RSPCA)となり、今日でも活動を継続している。
イギリスの動物虐待防止運動にならってアメリカではヘンリー・バーグ(1811-1888)が1866年ニューヨークにアメリカ動物虐待防止協会を設立し、動物虐待防止法を成立させた。その後、バーグは子供の虐待を防止する法案を議会で成立させた。このような経緯からアメリカでは動物虐待防止と子供の虐待防止が並行して行われている。
日本の近代動物愛護運動は、1902(明治35)年、キリスト教牧師・広井辰太郎が東京に動物虐待防止協会を作ったことに始まったが戦争が起こったこともあって動物の愛護についての一般の人々の関心が高まらず、運動は衰退した。現在の動物愛護運動の基は、第2次世界大戦後の1948(昭和23)年にガスコイン駐日イギリス大使夫人などにより社団法人日本動物愛護協会(後に財団法人日本動物愛護協会)が設立されたことに始まる。その後、社団法人日本動物福祉協会、社団法人日本愛玩動物協会、社団法人日本動物保護管理協会(現:社団法人日本獣医師会・2010(平成22)年4月に吸収合併)などが次々と設立され動物愛護運動が進められてきた。
環境省所管のこの動物愛護4団体で1991(平成3)年に「動物の保護及び管理に関する協議会」を設置し、1973(昭和48)年に制定された動物の保護及び管理に関する法律(動管法)の問題点の検討を始め1997(平成9)年には多くの動物愛護団体と共に「動物の法律を考える連絡会」を結成し1999(平成11)年の「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法)」への法改正に繋げた。さらに同法附則第9条において「政府は、この法律の施行後5年を目処として新法の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする」とし、この動物愛護4団体は、この見直しの検討への協力を行っている。
動物に対する強い思いから様々な活動を展開させている人々は、動物の権利を人間の権利と同等である、あるいは動物は何か人の役に立つからというのではなく、その動物であることによって道徳的に扱われる資格があるなどと主張する動物権利論者(アニマル・ライツ派)と人間が動物を利用することを全面否定することなく、動物の本性に照らして対象となっている動物の福祉がが充当されるべきである主張する動物福祉論者(アニマル・ウェルフェア派)の2種類に分けられるといわれている。
しかし、現実には動物と関わっている人々の大半はライツ派とウェルフェア派にはっきりと分けることはできないと思う。私を含め、動物のために活動する人々の多くは動物権利論と動物福祉論の間のどこかにそれぞれ自分のバラシング・ポイントを持っていてその視点に立ちながらアニマル・アドボケートとしての情報普及活動を展開していると思う。
その視点の一つとして現在世界中で広く受け入れられているのが
①飢え・渇きからの自由
②不快からの自由
③苦痛からの自由
④恐怖・抑圧からの自由
⑤自由な行動をとる自由
からなる5つの自由だ。
この5つの自由は動物愛護法にも取り入れられていてこのような自由が満たされていないことを動物虐待と考えられている。
今日の日本で動物愛護運動というと犬・猫の殺処分0が中心となり、犬・猫の動物扱い業者の質が大きくクローズアップされている。現在、子犬は49日齢(但し書き適用)からの販売となっているが子犬には刷り込み期と社会化期がある。犬の刷り込み期(生後28~55日)は、親・兄弟を仲間と認知する大切な時期であり、社会化期(生後56~90日)は、新しい飼い主・住環境・他人・他犬・他の動物・場所・物体・音など、積極的に慣らし始めることができ、子犬が生涯必要とする生活適応力が備わるとても大事な時期なのだ。動物愛護法では56日齢と規定されているが円滑に同法を施行し、すべての販売業者に遵守してもらうために子犬の販売日齢を猶予しているが、猶予期間が長すぎると思う。また、生体販売の方法やブリーダーの質についても問題視されている。犬・猫殺処分について、私は、犬にとって必要なものや環境は何かを知らずに虐待的飼養管理をしてしまう飼養者が多いことにも目を向けたい。飼養者に対して犬の正しい健康管理、正しい行動管理、環境管理に関する良質な情報の提供を行うこと、それと同時に犬に関する一方的でない正確な情報を社会に伝え、それに基づいた社会の受け入れ体制が整備されるような啓発運動、これも犬・猫殺処分0のためには必要な動物愛護運動の一環だと思う。。
適切な食事が与えられ、心身ともに苦痛を感じることなく可能な限り自然の習性にあった行動ができる生活を飼養者は犬に与える義務と責任があるということを肝に銘じておこう。
文・写真:吉川孝治
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